ストレスマネジメント

産業医の仕事のひとつとして、健康に関する問題を抱える方との面談があります。健康といっても健康診断でみられる身体の健康から、悩み、不安、ストレスなどメンタルヘルスの問題まで様々です。

中でも多いのは高いストレスによって生じるメンタル不調の問題であり、そのコントロールは個人としても会社としても重要な問題です。

仕事をする上で何らかのストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。
近年のデータでも、働く人の半数以上が、なんらかのストレスを感じている*と言われ、これまで以上にストレスとの向き合い方が重要視されるようになってきました。

ストレスの解消法として、まず思い浮かぶのは、運動や趣味をみつけてリラックスすることかもしれません。もちろん重要なことではありますが、より根本的な原因を知り、どのように対応するかが重要となってきます。

まずはストレスとは、どんな症状があるのか、どう対処したら良いのかなどの知識を持ち、現代社会を生きる上で避けて通ることが難しい「ストレス」との上手な付き合い方を考えてみましょう。

*厚生労働省令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」

ストレスとは

ストレスとは、物理学的には、物体に加えられた圧力が、その物体を歪ませる状態を指します。例えは、ゴムボールに分銅をのせると、圧力がかかって形が歪んでしまいます。このような歪んだ状態を「ストレス」状態といいます。
また、ゴムボールを歪ませる原因となっている分銅のことを「ストレス要因」、歪んだゴムボールが元の形に戻ろうとすることを「ストレス反応」といいます。

ストレス反応とは

ストレス反応は、さまざまな現象となって現れ、心、体、行動の3つに分類することができます。こんな症状が現れたら危険なサインです。

1.心理的反応

不安、イライラ、落ち込みやすい、何をするのも面倒、やる気が出ない落ち着かない、気が張り詰めている、憂鬱、劣等感

2.身体的反応

肩こり、頭痛、めまい、だるさ、動機、下痢、便秘、眠れない、食欲不振

3.行動化

酒・タバコの量が増える、食事量の極端な増加・減少、買い物しすぎ、ミスが増える、遅刻・早退の増加、作業効率の低下、攻撃的な言動の増加、ギャンブルにのめり込む
1つでも当てはまる症状があれば、次のリストを参考にしながら、その要因はどこにあるのかを考えてみてください。
  • 役割上の葛藤、不明確さ
    →仕事の意義が認識でき、働きがいは感じていますか?
  • 対人関係の、対人責任
    →部署内での意見の相違や対立など、対人関係に関する負担を感じていませんか?
  • 仕事のコントロール
    →業務量が多く、裁量度が低いことで負担が生じていませんか?
  • 不十分な技術活用
    →自分の持っている技術や知識、資格などが活用されているか不安を感じていませんか?
  • 仕事量負荷と変動性
    →仕事量が多いことによる業務負担を感じていませんか?
  • 仕事の要求
    →注意力や集中力の程度、知識、技術の高さなど、質的な業務負担を感じていませんか?
  • 長時間労働
    →長時間労働による身体的な業務負担はありませんか?
  • 交代制労働
    →不規則な勤務形態による精神的、身体的負担を感じていませんか?
  • 仕事の将来性への不安
    →これからもずっと今の仕事を続けることに、不安を感じていませんか?

仕事を頑張ることも大事ですが、これらの要因を放置しておくと症状が悪化して、「うつ病」になる危険性もあります。

うつ病と適応障害

うつ病について

うつ病とは、ストレスなどによって脳のエネルギーが欠乏した状態です。それによって憂うつな気分やさまざまな意欲の低下といった心の症状に加え、倦怠感などの身体的な症状も現れる状態のことです。
うつ病は、日本では130万人の方がその症状に悩まされていますが、患者数は今もなお、増加傾向にあり、「国民病」と言われるほどです。しかし、その実態について正しく認知されているとは言えず、まだまだ偏見が多い病気でもあります。
例えば、うつ病の方に対して、こんな声を聞かれたことはありませんか?

「うつになるのは精神的に弱いからだ」
「怠けているだけでしょ」
「少し休めばよくなるだろう」
「職場復帰はムリだ」

これらは決して、うつに対して正しく認識している、とは言えません。

うつ病は、誰でもなり得る、脳と心の病気です。
治療には数ヶ月程度の時間がかかりますので、根気よく治療を行うことで、職場復帰は可能です。
ただ、早期に職場復帰をさせようとすると、症状はさらに悪化することもあるので、注意が必要です。
うつ病は、こころとからだに症状が現れます。
こころの症状

  • うつ状態が続く
  • 集中力が落ちる
  • 食欲がわかない
  • 自信がなくなる
  • 何をしても楽しくない
  • 自殺願望が強い
からだの症状

  • 疲れやすい
  • 食欲が落ちる
  • 頭痛、肩こり、だるさ
  • 生理がこない
  • 眠れない
  • 動悸がする
うつ病は、自分自身ではなかなか気づきにくいことが多いので、周りが気づいてあげることが非常に大事になってきます。
もし、あなたの周りにこんな症状を抱えている人がいたら、声をかけてあげてください。
そして、うつ病の方が職場に復帰されたときには、周りの人たちの”支え”が必要です。
”頑張れ”と叱咤激励するのではなく、次のような言葉をかけてあげてください。

「無理しなくて大丈夫だよ」
「これまで辛かったね」
「相談してくれてありがとう」
「またゆっくり仕事に慣れていこうね」
「〇〇さんがいてくれて助かったよ」
「今日1日お疲れ様でした」

このように、相手の働きや存在を肯定する”あたたかみ”が、職場復帰された方の「明日も会社に出勤しよう」という、こころのエネルギーにつながるでしょう。
ぜひあたたかい声がけを、職場全体で心がけてください。

適応障害について

うつ病とよく似ているのが”適応障害”です。
症状としては、抑うつ状態や不眠、イライラ、絶望感など、確かにうつ病とよく似ていますが、大きな違いが1つあります。
それは、うつ病は、原因が曖昧なことが多いのに対して、適応障害は、原因がある程度、特定できることです。
適応障害の原因としては、仕事・家庭・恋愛・学校などにおける特定の人間関係や、抱えきれないほどの仕事量などが挙げられます。このような特定の原因により、不眠やイライラ、暴飲暴食など、気分や行動に症状が現れ、生活に支障がでている状態を、”適応障害”といいます。
治療法としては、次の2つのアプローチがあります。

1つは、ストレス要因の除去です。

例えば、会社の上司との人間関係が原因であれば、しばらく休職したり、配置転換をしたり、ストレス要因から離れる対策をとりましょう。

もう1つは、適応力を高めることです。

認知行動療法やカウンセリングなど、病院を受診することが必要になります。一人で抱え込まず、専門家の力を借りて、ストレスに対する受け止め方を変えていきましょう。
適応障害において一番大事なことは、症状が現れる前に、まず「予防」することです。
自分でできる対策として、十分な睡眠を取ったり、自分なりのストレス解消法を考えたりして、ストレス対処法を覚えることが大切です。
そして、周りの人たちは、普段から声をかけることを意識したり、相談しやすい環境を整えたり、相手を否定しない会話を心がけるなど、周りの援助も重要な予防策になってきます。
適応障害は、うつ病の前段階となるケースが多く、十分な注意が必要です。
「わがままだ」「怠けているだけだ」などとネガティブに捉えずに、学校や職場などで症状に悩んでいる人がいたら、一人にせず、明るく温かいコミュニケーションを心がけてください。

ストレスチェックについて

企業で毎年1回「ストレスチェック」を行なっていると思います。ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票 (選択回答)に回答することで、職場のストレス要因、心身のストレス反応、 周囲のサポートなどを調べることができる、簡単な検査です。
「労働安全衛生法」が改正されて、2015年12月から、労働者50人以上の事業場では全ての従業員*に対して、毎年1回実施することが義務づけられました。
ストレスチェックは、自分自身がメンタルの状態に気づき、セルフケアに活かすこと、またメンタルヘルス不調を未然に防止するために活用していただきたい検査です。
自分自身のことを客観的に知るためのチェックですので、「正直に」「考えすぎずに」回答してください。また、制度の目的を正しく理解しておくことも、この検査を有効活用するためのポイントです。
ストレスチェックの結果、高ストレスであった場合は、保健師や産業医による面接指導を受けることが出来ます。”面接”といっても、決して堅苦しいものではありません。ちょっとしたことでもお気軽にお話しできればと思います。
高ストレスの結果ではなかった方も面談できますので、ぜひお気軽にご相談ください。
面接指導後、産業医が事業者宛に「意見書」としてフィードバックしますが、産業医が一方的に意見を書くわけではありません。
意見書は、検査を受けてくださった方の意見を尊重して作成します。
また、面接指導の結果は、人事評価に影響することはありません。
ストレスチェックは、より良い職場環境につなげるための仕組みですので、ぜひ安心して正直にかつ真剣に受けていただきたいと思います。

*契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は対象外。

ストレスマネジメントの重要性

社会情勢や働く環境が目まぐるしく変化する現代社会において、わたしたちはストレスと無縁の生活を送ることは難しい状況にあると考えます。
そこで大事になってくるのが、ストレスとの付き合い方です。
精神的、肉体的負担となっているストレスと上手に付き合い、適切に管理することを”ストレスマネジメント”といいます。
働く人たちの、ストレスによる精神障害や労働災害の増加が懸念される近年、ストレスマネジメントの重要性は増してきています。

ストレスを予防しよう

ストレスマネジメントの第一歩は、「予防」からです。
予防の重要性はこれまでも繰り返しお伝えさせていただきましたが、今回はより具体的にみていきましょう。予防のための具体策としては、個人と会社、両者からのアプローチが重要です。

1.会社でできるストレス予防

快適な職場環境を整える

  • 職場に新鮮な空気を取り入れられているか
  • 暑すぎたり、寒すぎたりすることなく、室温は快適か
  • 適度な明るさの照明になっているか
  • 騒音など、うるさすぎる環境になっていないか
  • 適度な広さの作業空間は確保できているか
  • 休憩時間に従業員がリフレッシュできる場所はあるか
  • 悩みや相談を伝えやすい雰囲気ができているか
このような観点から快適な環境を整えることで、従業員のメンタル不調を予防できるだけでなく、生産性の向上にもつながります。ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

2.個人でできるストレス予防

■自分の状態を客観視する(書き出す)

従業員一人一人ができるストレス予防、まずは「自分の状態を知る」ことも大事です。なんとなく憂鬱、不安、ストレス、「なんとなく」違和感がある状態というのは、自分の現状がはっきり見えていない、モヤモヤの霧の中にいるような状況です。
このモヤモヤした「なんとなく」の状態から抜け出すために、自分自身に問いかけたり、書き出したりすることで、はっきりと、自分を客観視することにつながります。
自分は今どんな状態なのか、何に悩んでいるのか、どこに問題があるのか、今の自分を知ることで、「解決のための具体的な行動」が見えてきます。
具体的には起こった事実とその時にどんな感情が自分に起こっているのか、どうすれば良いと考えるのか、「事実」と「感情」を分けて書いてみる、ということをお勧めしています。
■自分でできるストレスの対処法

自分でもストレスのある状態に早く気づき、あるいは日常予防的に、次の「3R」で表されるリラックス法を心がけてみましょう。

レスト(Rest)
レクリエーション(Recreation)
リラックス(Relax)

具体的には

  • 規則正しい生活を心がけ、睡眠を十分にとる
  • 親しい人たちと交流の時間を持つ
  • 日常に笑いを取り入れる
  • 仕事に関係のない趣味を取り入れる
  • 自然に親しむ機会を多く持つ
  • 適度に運動する
  • 呼吸法やストレッチなど、リラクゼーション法を身につける
  • 入浴は睡眠90分前を目処に湯船につかる
  • 太陽の光を浴びる
  • ストレス解消をお酒やタバコに頼らない

参考:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構「こころの健康 気づきのヒント集」 改編

最後に

最後に、ストレス学の権威と言われるカナダ人の生理学者、ハンス・セリエの言葉をご紹介します。

「ストレスは、人生のスパイス」

ハンス・セリエ

これは、適度なストレスは日常に程よい緊張感をもたらし、時に意欲や活力を引き出す原動力となり得る、ということを表しています。
確かに、ストレスが全くゼロの環境では、人は学ぼう、成長しようという意欲が失われてしまいますので、ある程度のストレスは、人生に必要なスパイスといえるでしょう。
とはいえ、変化の激しい現代社会では、”適度”を越えて、”過剰な”ストレスをためてしまいがち。過剰なストレスの蓄積が、多くの人のこころと体を蝕む原因となっているのです。
心身ともに健康で、充実した毎日を過ごすために大事なのは、まず自分の状態を知って、問題を明確にし、1日も早く適切に対処することです。
個人でも会社でもストレスマネジメントに取り組んでください。